ドクター渡辺の税金講座

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民法相続編の見直しに伴う相続税制の改正(その2)
遺産分割と特別受益者の相続分についての改正

Q1.民法の特別受益者の相続分について改正があったそうですが、どんな改正ですか。

A1.令和元年7月施行の改正民法において、持戻し制度が見直され、その結果特別受益者の相続分の取扱いが以下のとおり改正されております。

1.現行の民法の持戻し制度と特別受益者の相続分について

  • (=下記の民法903条第1項~3項の持戻し制度は改正されておりません。)


    1)共同相続人中に被相続人から遺贈を受け、又は婚姻もしくは養子縁組のため、もしくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人の相続開始時の財産の価額に、その贈与時の財産の価額を加えたものを相続財産とみなして算定した相続分の中からその受益財産価額を控除した残額をもってその者の相続分とします。(民法903条第1項)


    (注)持戻し対象財産と持戻し価額
    1. ①持戻し対象財産は「婚姻若しくは養子縁組のため、若しくは生計の資本」と定めており、通常の扶養義務に係る生活費、教育費等は対象外ですが、その者に特別に支出した高額な教育費などは対象となります。
    2. ②上記持戻し財産の持戻し価額は、受益者の行為によってその財産が滅失し、又はその価額に増減があっても相続開始時においてなお現状のままであるものとして定めることになっています。(民法904条)
      例えば、贈与時200万円の新車が、相続開始時には20万円に低落していてもその車の相続開始時の新車としての時価が300万円であれば持戻し価額は300万円になります。

  • 2)遺贈又は贈与の価額が上記1)で算定した相続分以上であるときは、その受贈者はその相続分を受け取ることができません。(民法903条第2項)
    • (注)ただし、その超過分の返還までは求めておりません。被相続人の贈与等の意思を尊重するためです。

  • 3)被相続人が上記1)、2)と異なった意思(持戻し免除の意思)を表示したときは、その意思に従うこととしております。(民法903条第3項)
    (補注1)持戻し免除と遺留分の関係
    • ①上記の規定に拘わらず、それが他の相続人の遺留分を侵害している場合には、遺留分の減殺請求があり得ます。
    • ②なお、遺留分制度及び遺留分の算定方法については、別に改正が行われており改めてご案内の予定です。

2.持戻し免除の意思表示の推定規定の創設について

  1. 1)創設された民法903条第4項の内容
    (=下記の民法903条第4項の規定が創設されました)
    婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対しその居住の用に供する建物又はその敷地(=居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合には、その被相続人はその遺贈又は贈与について特別受益の持戻し免除の意思を表示したものと推定する旨の規定が創設され、令和元年7月1日から施行されています。

  2. 2)現行の贈与税の配偶者控除制度
    婚姻期間20年以上の配偶者から居住用不動産、又は居住用不動産を取得するための金銭を取得し、その贈与を受けた年の翌年3月15日までにその取得した居住用不動産を居住の用に供し、かつ引き続き居住の用に供する見込みである場合には、その年分の贈与税について基礎控除110万円のほかに2,000万円が控除されます。

  3. 3)改正民法903条第4項と贈与税の配偶者控除制度との関係
    1. ①見直し前では上記2)の配偶者への贈与を行った場合又は遺贈した場合でも、原則として遺産の先渡しを受けたものとして取り扱うため、被相続人が贈与又は遺贈した趣旨が遺産分割協議に反映されず、結果的に贈与等がなかった場合と同じになります。
      (注)被相続人が遺言で持戻し免除の意思表示(民法903条3項)することで、この贈与等を持戻し免除とすることは可能です。
    2. ②改正法では上記(注)のような手続きをしていなくても、上記2)の贈与等については持戻し免除の意思表示があったものとして取扱うことになりました。

  4. 4)制度見直しの効果
    上述の規定(民法903条4項)を設けることにより、原則として遺産の先渡しを受けたものとして取り扱う必要がなくなり、配偶者の長年にわたる貢献に報いると共に、老後の生活保障の趣旨で行った贈与・遺贈の趣旨を尊重した遺産分割が可能となりました。
    (注)持戻し免除と遺留分の関係については、前述(補注1)のとおりです。
    つまりこの規定によっても、遺留分の侵害までは容認していないということです。

  5. 5)事例による制度見直し前後の比較
    1. ①<事例> 相続人  配偶者と子2人

    2. ②遺産分割(法定相続分)後の配偶者の取り分比較

      (注)上記配偶者の相続取り分が相続税の課税価格の算定対象となり、配偶者に対する居住用不動産の生前贈与(非課税贈与)は、見直し前・後を問わず相続税の課税対象にはなりません。


    3. ③遺産分割(法定相続分)後の配偶者の金融資産取り分と相続税比較
      (=遺産の内、居住用不動産の持分1/2は配偶者が分割により取得したとして試算)
      • (注1)配偶者が相続等で取得した居宅敷地は330㎡まで原則評価額の80%が減額されます。
      • (注2)各人の算出税額は、相続税の総額×各人の課税価格の割合(=按分割合)
      • (注3) 配偶者の相続税は遺産の1/2、又は160百万円のいずれか多い方まではかかりません。
      • (※)本件事例では見直し後の配偶者の金融資産取り分が1,000万円から2,000万円に増加しました。

3.民法における持戻しの対象財産と特別受益の取扱い

  • 1)持戻しの対象財産は「婚姻若しくは養子縁組のため、若しくは生計の資本」(民法903条1項)ですが、要するにある程度高額な贈与は原則として全て特別受益に該当し、持戻し制度の対象となります。
    (注)特別受益は、被相続人の意思に基づいて行われるものですから、その意図が特定の者に相続分以上に特別の利益を与えるものであるとしても、遺留分制度に反しない限りなし得る訳ですが、それには遺言書で持戻し免除の意思表示をしておくことが肝要です。

  • 2)婚姻期間が20年以上の配偶者に対する居住用不動産の贈与の非課税制度を利用した生前贈与についても、持戻し制度の対象でしたが、今回の改正で遺言書へ表示を洩らしていても持戻し免除の意思表示があったものと推定されることになりました。

  • 3)なお、次の贈与税の非課税制度による贈与については、民法上の特別受益の対象であるため、上記持戻し免除の意思表示をしておかない限り、遺産分割に際して持戻し制度の対象財産となりますのでご留意下さい。
    1. ①直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
    2. ②直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
    3. ③直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度

  • 4)生命保険金の特別受益の取扱い(ご参考)
    生命保険金は、生命保険会社との生命保険契約に基づき相続人が取得するものと位置づけられており、遺産分割の対象となる相続財産からは除外されています。従って持戻し対象となる特別受益にもなりません。

  • 5)死亡退職金の特別受益の取扱い(ご参考)
    死亡退職金は、退職金規程等において定められた受給権者に対し、遺族の生活保障を目的として与えられるものと位置づけられており、遺産分割の対象となる相続財産からは除外されています。従って持戻し対象となる特別受益にもなりません。(通説)

4.民法の「特別受益」と相続税の取扱いとの相違点

  • 1)「相続開始前3年以内贈与」の民法と相続税法との取扱いの違い
    1. ①相続税法は、相続又は遺贈(死因贈与を含みます)により、相続財産を取得した者が、相続開始前3年以内に受贈した財産がある場合は、その財産が特別受益に該当するか否かを問わず課税価格に算入することとされています。
    2. ②一方、相続又は遺贈により財産を取得していなければ、民法の特別受益を受贈した者であっても、その者が受贈した財産は相続税の課税価格に加算されることはありません。
    3. ③また、相続又は遺贈により財産を取得していても、相続開始前3年超以前の受贈財産であることが確認できるものは、その財産が特別受益に該当するか否かを問わず相続税の課税価格に算入されません。
    4. ④ただし、「相続時精算課税」制度の適用を受ける贈与については、常に相続財産に取り込まれることとされておりますのでご留意下さい。

  • 2)「贈与税の非課税財産」の民法と相続税法との取扱いの違い
    1. ①婚姻期間20年以上の配偶者に対する居住用不動産の贈与税の非課税制度
      • イ)この制度を利用した生前贈与では「相続開始前3年以内贈与」に該当する場合に限り、贈与税の配偶者控除2,000万円の額を超える部分についてのみ相続税の課税価格に算入することとされています。
      • ロ)一方、改正民法の取扱いでは掲題の生前贈与については、贈与の時期にかかわらず持戻し免除の意思表示の推定規定により、相続財産の持戻しは不要となりました。
    2. ②これ以外の贈与税の非課税
      • イ)前述の3の3)の①~③に掲げる直系尊属からの各種贈与の非課税制度を利用した生前贈与では「相続開始前3年以内贈与」に該当する場合に限り、それぞれの制度に係る非課税限度額を超える部分についてのみ相続税の課税価格に算入することとされています。
      • ロ)一方民法上の取扱いでは、上記いずれの贈与も贈与の時期に拘わらず特別受益の持戻し対象財産となります。

  • 3)生命保険金・死亡保険金の民法と相続税法との取扱いの違い
    1. ①相続税法では生命保険金・死亡保険金は本来相続財産ではないが、「みなし相続財産」として相続税の課税価格に算入することとしております。
    2. ②一方、民法上では前述のとおり原則として本来の相続財産ではないので、特別受益に該当せず遺産分割の対象財産にもなりません。

  • 4)「特別受益の持戻し価額」の民法と相続税法との取扱いの違い
    1. ①相続税法では、イ)相続又は遺贈により相続財産を取得した者が相続開始前3年以内に受贈した財産(贈与税の非課税制度の非課税枠を超える部分を含みます)又はロ)「相続時精算課税」制度の適用を受ける贈与財産については、相続税の課税価格に算入することとされています。その際、相続税の課税価格に算入すべき価額は、その贈与財産の贈与時の価額(=贈与税の申告書記載価格)とされています。
    2. ②一方、民法の取扱いでは特別受益とされた財産は贈与の時期に拘わらず、原則として全て相続財産に持ち戻されることになります。 その際、相続財産に持ち戻される特別受益の価額は、その相続開始時の時価(=当事者が合意した客観的な時価)とされています。