ドクター渡辺の税金講座

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民法相続編の見直しに伴う
相続税制の改正

Q1.相続に関する民法の改正があったそうですが、どんな改正があったのでしょうか。

A1.我が国における高齢化社会の進展、及び家族の在り方に関する国民意識の変化などを踏まえ、民法の相続編について昭和55年以来となる大幅な見直しが行われ、平成30年7月に成立・公布されております。
改正法のあらましと施行日は次のとおりです。

一.民法相続編改正のあらまし

1.遺言制度に関する見直し

  • 1)自筆証書遺言の方式の緩和
    • 自筆証書遺言に自筆でない財産目録を添付して作成することも可能となった。(新法968条2項)
  • 2)遺言執行者の権限の明確化(新法1012~1016条)
  • 3)遺言書保管制度の創設(遺言書保管法)
    • 公的機関(法務局)で自筆証書遺言を保管する制度が創設された。

2.配偶者の居住権を保証するための方策

  • 1)配偶者短期居住権の新設(新法1037~1041条)
    • 配偶者が相続開始時に遺産に属する建物に無償で居住していた場合には、遺産分割が終了するまでの間無償でその居住建物を使用できるようになった。
  • 2)配偶者居住権の新設(新法1028~1036条)
    • 配偶者の居住建物を対象として、終身又は一定期間配偶者にその使用、又は収益を認める法定の権利を創設し、遺産分割又は遺贈により配偶者に配偶者居住権を取得させることが可能となった。

3.遺産分割に関する見直し

  • 1)持戻し免除の意思表示の推定規定の創設(新法903条4項)
    • 婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈、又は贈与がされたときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定して、遺産分割ができるようになった。
  • 2)預貯金仮払い制度等の創設・要件明確化(新法909条の2)
    • 遺産に属する預貯金について、その総額の3分の1にその者の法定相続分を乗じた額(ただし当面の生計費や葬式費用、相続債務の弁済などの必要資金として法務省令(※)で定める額を限度とする)については、遺産分割前でも単独で払戻しを受けられる制度を明文化した。
      (※)上記法務省令は後日法務省から発表される予定です。
  • 3)遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲の明確化(新法906条の2)
    • 相続開始後に共同相続人の一人が遺産に係る財産を処分した場合に、他の共同相続 人に計算上生じる不公平を是正する方策が明示的に設けられました。

4.遺留分制度に関する見直し

  • 遺留分侵害額の金銭債権への変更(新法1042~1049条)
  • 遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生じるとされていた従前の規定を見直し、遺留分侵害額に相当する金銭債権の請求権に変更された。

5.相続の効力等に関する見直し(新法899条の2)

  • 相続させる旨の遺言書により承継された財産については。登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができた従前の規定を見直し、法定相続分を超える権利の承継については、登記・登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないことに改められた。

6.特別寄与料制度の創設(新法1050条)

  • 相続人にしか認めてこなかった寄与分の制度を見直し、相続人以外の被相続人の親族が被相続人に対して無償で療養看護等を行った場合には、相続人に対して「特別寄与料」の請求をすることができることになった。

二.民法相続編の施行期日

  • 1.原則(下記以外の改正項目の施行日) 2019年(令和元年)7月1日
  • 2.自筆証書遺言の方式の緩和      2019年(平成31年)1月13日
  • 3.配偶者居住権・配偶者短期居住権   2020年(令和2年)4月1日
                        (改正債権法施行日に同じ)
  • 4.遺言書保管制度           2020年(令和2年)7月10日
                        (システム準備のため)

Q2.配偶者の居住権を保護するための方策が新たに講じられたそうですが、どんな制度ですか

A2.配偶者の居住権を保護するための方策は大別すると、遺産分割が終了するまでの間の短期間に限り保護する方策(配偶者短期居住権)と、配偶者が原則として終身その居住建物を使用することができるようにするための方策(配偶者居住権)とに分かれています。

一.配偶者短期居住権

1.現行制度

配偶者が相続開始時に被相続人の建物に居住していた場合には、原則として被相続人との間に使用貸借契約が成立していたものと推認され、同居配偶者の居住権は一定程度は保護されてきましたが、第三者に居住建物が遺贈されてしまった場合など被相続人が反対の意思を表示していた場合には、使用貸借が推認されず、居住が保護されないのが実情でした。


2.見直しのポイント

  • 1)配偶者は相続開始時に被相続人の建物に無償で住んでいた場合には、一定の期間(※)居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を有することとされました。
  • (※)一定の期間
    • ①配偶者が居宅建物の遺産分割に関与するときは、遺産分割により居住建物の帰属が確定する日と相続開始から6ケ月を経過する日のいずれか遅い日までの間
    • ②居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄した場合には、居住建物の所有者から居住権の消滅請求を受けてから6ケ月

  • 2)新設された配偶者短期所有権の詳細
  • 新民法1037条から1041条に規定されていますので、詳細については条文をご参照ください。

3.制度導入のメリット

配偶者が被相続人の建物に無償で居住していた場合には、被相続人の意思にかかわらず一定の期間保護されることになった。

  • 1)被相続人が居住建物を配偶者以外の者に遺贈した場合など、反対の意思を表示した場合であっても、常に最低6ケ月間は配偶者の居住が保護されます。
  • 2)配偶者短期居住権の規定には、「被相続人の財産に属した建物」とだけ規定されているので、被相続人が老人ホーム等に居住していた等で別居の状態であっても、配偶者が無償で居住していた建物であれば、配偶者は配偶者短期居住権を有することになります。

4.配偶者短期居住権の評価等

  • 1)配偶者短期居住権を取得したことによる経済的利益はないものとされ、所得税、相続税の課税対象にはなりません。
  • 2)配偶者短期居住権が有る土地・建物等を相続・遺贈により取得する相続人等も、相続財産評価上の斟酌(減額)は行われません。

二.配偶者居住権

1.現行制度

相続人が妻と子で遺産が自宅と若干の預貯金である場合に、法定相続分どおりに遺産分割を行おうとすると、妻が住まいを確保しようとすると預貯金の分配には預かれないか、もしくは自宅を売却しないと遺産の分割そのものができないことになりかねないのが実情でした。


2.見直しのポイント

  • 1)配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定の期間配偶者に建物の使用、及び収益を認めることを内容とする法定の権利(配偶者居住権)を新設することで、次の選択が可能となりました。
    • ①遺産分割における居宅の分割方法として、配偶者の居住権を選択肢に加える。
    • ②被相続人の遺言によって、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようになる。

  • 2)配偶者居住権の効力等(詳細については、新法1028条~1041条をご参照ください)
    • ①配偶者居住権の登記請求権を認め、第三者に権利を対抗することができる。
    • ②存続期間
      • 原則として配偶者の終身の間とする。ただし、遺産分割協議書若しくは遺言に別段の定めがあるときはその定めるところによる。
    • ③配偶者による使用・収益権(新法1032条)
      • イ)従前の用法に従い、善管注意義務を以って使用・収益すべきとしています。 ただし、例えば従前の用法が1階を店舗として収益し、2階を居宅として使用していたものを、居住の用以外(店舗)部分を居住の用に転用することことは妨げないとしている。
      • ロ)居住建物の増改築や転貸を禁じているほか、配偶者居住権の譲渡も認めていません。

3.制度導入のメリット

1)次の参考例において現行と制度導入後のメリットを比較してみました。

    <参考例>
    • 相続人は妻と子  遺産が自宅2,000万円、預貯金3,000万円
    • 妻には居住権を優先配分のうえ法定相続分で分割する。

表4


4.配偶者居住権の相続税評価額

  • 1)評価の考え方
    • ①改正相続税法は、民法で居住建物の使用収益権と意義付けられた配偶者居住権に対して、建物の利用権と敷地の利用権に区分して評価方法を定めています。
    • ②そして居住用建物の価額(負担付所有権)及び居住建物の敷地の負担付き価額は、上記①で定められた居住建物に係る配偶者居住権の建物利用権、及び敷地利用権の価額を控除した残額としています。

  • 2)配偶者居住権の相続税評価額

表4

(注1)
上表の「建物の時価」及び「土地等の時価」は、それぞれ配偶者居住権が設定されていない場合の建物及び土地等の相続税評価額です。
(注2)
上表の「残存耐用年数」とは、居住建物の法定耐用年数(住宅用)×1.5倍の年数から築後経過年数を控除した年数
(注3)
上表の「存続年数」とは、次の通り定められています。
  • イ)配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身である場合
    • =配偶者の平均余命年数(※)
    • (※)平均余命年数とは
    • 厚生労働省が5年毎に作成する「完全生命表」に基づく平均余命表で、直近のものを適用することになる見込みです。
  • ロ)イ)以外の場合
    • =遺産分割協議書、又は遺言書に定められた配偶者居住権の残存期間の年数(配偶者の平均余命年数が上限)
    • (配偶者の平均余命年数が上限)

(注4)
残存耐用年数又は(残存耐用年数-存続年数)がゼロ以下となる場合は、上表算式の〔(残存耐用年数-存続年数)÷残存耐用年数〕はゼロとします。
(注5)
民法の法定利率による複利現価率とは
民法が定める法定利率は、2020年から当初3%の変動制となり、その法定利率に基づく複利現価率は国税庁が評価通達で公表する予定です。

  • 3)配偶者居住権と小規模宅地等の特例の適用関係
  • 民法改正で創設された配偶者居住権制度については、来年4月1日の相続等から適用が開始されます。
  • その際、配偶者居住権に係る敷地利用権と、土地の負担付所有権についての小規模宅地等の特例の適用については次のとおりです。
    • ①配偶者居住権に係る敷地利用権の適用関係
      • 当該権利は「土地の上に存する権利」に該当し、配偶者が取得する権利であるため無条件で小規模宅地等の特例の適用対象となります。つまり、330㎡まで80%の課税価格の減額対象となります。
    • ②配偶者居住権が設定された負担付土地所有権の適用関係
      • 現行の小規模宅地等の特例要件を充たせば適用可能です。
      • 配偶者が居るケースに該当しますので、同居親族要件を充たすことが要件です。
      • つまり、相続開始直前において被相続人と同居しており、かつ相続後も配偶者居住権を取得した配偶者と共に当該居住建物に居住を継続することで適用可能となります。