ドクター渡辺の税金講座

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平成30年度税制改正
農地等に係る相続税の納税猶予制度の見直し

Q.農地等に係る相続税の納税猶予を受けている場合の都市農地等の特例適用要件の見直し (緩和)が行われたそうですが、それはどんな改正ですか。

A1.制度改正の背景と趣旨

1.制度改正の背景等

1)平成初期前後の地価高騰を受けて、平成3年度税制改正において、農地等に係る相続税の納税猶予制度が、特に都市農地等について次のような見直しが行われました。
①三大都市圏の特定市の市街化区域内の農地について宅地化すべき農地と保全すべき農地に区分し、宅地化すべき農地(特定市街化区域農地等)は、納税猶予の適用対象から除外されました。
②他方、保全すべき農地(都市営農農地等=三大都市圏の特定市の区域内に所在する生産緑地地区内の農地又は採草放牧地)は、相続税の納税猶予の対象とされ、営農期限は終身とされました。
また平成4年の生産緑地法の一部改正により、生産緑地の指定を受けた農地については、指定から30年間は主たる農業従事者に「死亡」又は「故障」が生じない限り市町村に買取り申し出をすることができないこととされました。

2)上記見直しを受けて三大都市圏の特定市街化区域農地等の面積は、平成4年には30,628ha(ヘクタール)あったものが、平成27年には11,956ha(平成4年比△61%)へと激減しておりますが、生産緑地面積は15,109haから13,110ha(平成4年比△13%)へと微減にとどまっています。

3)なお、相続税の納税猶予の適用対象農地は、現行法では農業相続人自らが営農することが原則であり、例外は次の場合に農地を貸付ける場合に限られています。
①営農困難時貸付けの特例
農業相続人が障害、疾病その他の事由により相続税の納税猶予の適用を受ける農地等について、その農業相続人の農業の用に供することが困難な状態になった場合において、その農地等について一定の貸付け(「営農困難時貸付け」といいます)を行ったときは、その日から2ケ月以内にその旨を所轄税務署長に届出書を提出したときに限り、農業経営は廃止していないものとみなされます。
②特定貸付けの特例
農地についての相続税の納税猶予を受けている農業相続人(「猶予適用者」といいます)が、納税猶予期限までに特例農地等(市街化区域内農地等を除きます)の全部、又は一部について一定の貸付け(「特例貸付け」といいます)を行った場合において、その日から2ケ月以内にその旨を所轄税務署長に届出書を提出した場合には、農業経営は廃止していないものとみなされます。
<補注>上記「営農困難時貸付け」ないしは「特定貸付け」の詳細については、措置法70の6第28項ないしは措置法70の6の2第1項をご参照ください。

(表1) 改正前の農地等に係る納税猶予期限等一覧表

表1

2.制度改正の趣旨

1)上記のとおり平成4年以降農地として凍結されてきた生産緑地ですが、平成34年(2020年)を迎えると30年間としている生産緑地に対する買取申し出期限が到来します。地主は市町村に買い取り請求することが出来るようになりますが、財政に余裕のない自治体が買い取ることは難しいのが現実です。現行法では特例適用農地は農業相続人自ら営農することが原則であり、地主が農業の継続を断念して一斉に土地を手放せば、宅地化が急速に進み地価が暴落するリスクがあります。これが生産緑地を巡るいわゆる「22年問題」といわれるものです

2)バブル期の地価が下落し、都市部の人口増加も緩やかになる中で、近年都市における農地の位置づけが「宅地化すべきもの」から「都市にあるべきもの」へと変化してきています。 そうした中、平成27年4月に「都市農業振興基本法」が成立し、都市農業の振興が図られることになりました。
安定的かつ確実に都市農業を継続するためには、意欲ある都市農業者等による農地の有効な活用を促進する必要があり、平成30年6月に「都市農地の貸借の円滑化に関する法律」が成立しました。
3)これを受けて、税制においても、農地についての納税猶予制度において農業相続人が自ら営農することが原則となっているものを、都市農地を貸付けた場合にも相続税の納税猶予制度を継続適用できる特例が設けられました。

A2.相続税の納税猶予を適用している場合の都市農地の貸付けの特例制度の創設

1.制度のあらまし

相続税の納税猶予制度の適用を受ける農業相続人(以下「猶予適用者」といいます)が、「生産緑地」の全部、又は一部について次の1)又は2)の貸付けを行った場合において、その日から2ケ月以内にその旨の届出書を所轄税務署長に提出したときは、農業経営は廃止していないものとみなして、引き続き相続税の納税猶予制度の適用を受けることができる特例が創設されました。

1) 都市農地の貸借の円滑化に関する法律第7条に規定する「認定事業計画」に基づく 貸付け(=「認定都市農地貸付け」) =具体的には猶予適用者が市町村長の認定を受けた認定事業計画に基づき生産緑地地区内の農地を他の農業者に直接貸し付ける場合が該当します。

2)次に掲げる生産緑地地区内の農地の貸付け(=農園用地貸付け)

3)見直し後の給与所得控除額は、下記(表1)のとおりとなりました。
①「特定農地貸付法」による承認を受けた地方公共団体、又は農業協同組合が特定農地貸付けの用に供するために猶予適用者との間で締結する農地の貸付け
=具体的には地方公共団体や農業協同組合が農業委員会の承認を受けて開設する市民農園の用に供するために猶予適用者がこれらの開設者に農地を貸し付ける場合が該当します。
②特定農地貸付法による承認を受けた猶予適用者が同法が定める貸付規程に基づき 行う貸付け
=具体的には猶予適用者が農業委員会の承認を受けて市民農園を開設し、利用者に直接農地を貸し付ける場合が該当します。
③特定農地貸付法による承認を受けた一定の者が猶予適用者との間で締結する農地の貸付け
=具体的には地方公共団体や農業協同組合以外の者(株式会社など)が農業委員会の承認を受けて開設する市民農園の用に供するために猶予適用者が開設者に農地を貸し付ける場合が該当します。

2.適用関係

1)上記の改正は都市農地の貸借の円滑化に関する法律施行日(平成30年9月1日)以後の相続・遺贈により取得する特例農地等に係る相続税について適用されます。

2)旧法猶予適用者の取扱い
今般の改正では、改正前の旧法による猶予適用者も、その者の選択により今回創設された認定都市農地貸付け、又は農園用地貸付けの場合の特例を適用できることとされ、上記法律の施行日以後に農地を貸付けた場合に適用されます。

A3.農地等についての相続税の納税猶予制度の改正

1.特例適用農地の対象の追加・拡充

1)農作物栽培高度化施設の敷地の用に供される土地が農地とみなされることになる農地法上の改正
①農地法では、農地とは「耕作の目的に供する土地」と定義されており、土地を直接耕作することが要件とされていましたが、近年生産技術の向上により多様な栽培方法がとられるようになり、これらの栽培に際しては、その敷地を全面コンクリート等で覆い、農作物栽培高度化施設(水耕栽培や固形培地耕栽培などを行う農業用ハウスなど)を設置して栽培を行うケースが増えています。
②そこでこれら高度化施設の敷地についても、農地法の耕作地に該当するとみなすものとする「農業経営基盤強化促進法の一部を改正する法律」が平成30年5月に成立しております。
③これにより、農業委員会に届け出て農作物栽培高度化施設の底面とするために農地をコンクリート等で覆う場合にも、引き続き農地として農地法の適用を受けることになりました。

2)農地法上の改正に伴う税制上の特例適用農地の適用対象の追加
農地等についての相続税等の納税猶予制度の対象となる農地は、農地法上の農地とされており、上記農地法における改正を受けて、新たに農地法が適用される農作物栽培高度化施設の敷地の用に供される土地についても、農地等についての相続税の納税猶予制度の適用対象に加えられました。

3) 適用関係
上記改正は、上記農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律の施行日以後に相続等により取得する特例適用農地等に係る相続税等について適用されます。

2.特定生産緑地制度、田園住居地域制度の創設に伴う都市営農農地等の範囲の税制上の見直し

1)生産緑地法における特定生産緑地制度の創設
都市緑地法の改正により、下記の「特定生産緑地」制度が創設され、平成30年4月1日から施行されております。
①「特定生産緑地」とは、申出基準日(平成4年の生産緑地の都市計画の告示日から30年を経過する日で、これ以後買取りの申し出ができるようになります)が近く到来することになる生産緑地のうち、当該申出基準日以後においてもその保全を図ることが良好な都市環境の形成上有効であるとして市町村長が指定したものをいいます。
②この指定は申出基準日までに行うものとされ、その指定の期限はその申出基準日から10年を経過する日とされています。
③この10年延長された期限後においても市町村長が指定を継続する必要があると認めるときは、再度10年延長することができることとされています。
(注)上記①、②の指定期限の延長は所有者の意向を前提としており、延長された期限を「指定期限日」といいます。

2)都市計画法における田園居住地域の創設 都市計画法の改正により、下記の「田園住居地域」という用途地域が創設され、平成30年4月1日から施行されております。
①「田園住居地域」とは、農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住環境を保護するため一定の規制が課された地域です。
②具体的には次のような観点を取り入れた農地と宅地が調和した良好な都市住環境の形成を目指した地域です。
    イ)農地を点的に保全する生産緑地の課題を踏まえ、農地を面的に保全した営農環境を創設する。
    ロ)戸建住宅等の低層建築物に限定して農地の日照等を確保する。
    ハ)用途地域内で温室や農家レストラン等の立地を認めることにより、農地と宅地の調和した都市環境の形成を図る。

3)都市営農農地等の範囲の税制上の見直し
上記1)及び2)の創設に伴い相続税等の納税猶予制度において、次の見直しが行われました。
①都市営農農地等の範囲の見直し
都市営農農地等の範囲に、特定生産緑地、及び田園住居地域内にある農地が追加されるとともに、次の生産緑地が除外されました。
    イ)申出基準日までに特定生産緑地の指定がされなかったもの
    ロ)特定生産緑地のうち、買取り申し出がされたもの
    ハ)指定期限日までに特定生産緑地の指定の期限の延長がされなかったもの
    ニ)特定生産緑地の指定が都市計画法の改正等で解除されたもの
②買取り申出等があった場合の納税猶予期限の見直し
納税猶予期間中に特例適用農地等について買取りの申出等があった場合には、その日から2ケ月後に納税猶予期限が切れますが、この買取り申出等の範囲に上記①のロ)及びニ)が追加されました。
③特定生産緑地の指定、及び延長がされなかった生産緑地の納税猶予期限について生産緑地のうち、上記①のイ)及びハ)により、特定生産緑地の指定がされなかったものは、都市営農農地等に該当しなくなり、これらの農地等について相続の発生が生じても新たに相続税の納税猶予の適用を受けることはできませんが、これらの生産緑地につき現に納税猶予の適用を受けている納税猶予適用者については、その適用を受けている納税猶予に限ってはその猶予が継続されます。(次の相続等の際には適用が受けられません。)
④適用関係
上記①~③の見直しは、平成30年4月1日以後に相続等により取得する特例適用農地等に係る相続税等について適用されます。

3.見直し後の公的年金等控除額

1)農業振興基本法の制定を受け、都市部の生産緑地を継続的な農業上の利用に資するため、これまでの相続税の申告期限から20年間農業を継続すれば相続税額が免除されることによる宅地転用の可能性もある仕組みを改め、営農期限が終身に改正されました。

2)なお三大都市圏の特定市以外の地域の市街化区域内の農地等で生産緑地の指定を受けていないものについては、従来通り農業相続人の死亡の日、又は相続税の申告期限の翌日から20年経過日のいずれか早い日において猶予税額が免除されます。

3)適用関係
上記1)の改正は、都市農地の貸借の円滑化に関する法律施行日(平成30H年9月1日)以後に相続等により取得する特例農地等に係る相続税について適用されます。

(表2) 改正後の農地等に係る納税猶予期限等一覧表
下線部分が見直し部分に該当)

表1

※生産緑地に特定生産緑地が追加され、特定生産緑地の指定の延長がされなかった生産緑地が除外されました。