ドクター渡辺の税金講座

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平成30年度税制改正
個人所得課税の見直し

Q1.今年度税制改正で個人所得課税について体系的な見直しが図られたそうですが、どんな改正が行われたのでしょうか。

A1.個人所得課税見直しの背景とポイント

1.見直しの背景

我が国の個人所得課税は「学校を卒業後は会社勤めをし、定年を迎えると年金生活に入る。そんな夫を妻が専業主婦として支える」のが国民の典型的なライフ・スタイルと捉えて、給与所得者と年金所得者には特別に優遇を認める仕組みになっています。
ところが近年では特定の企業に属さず専門能力を活かしてフリーランスとして仕事を請け負ったり、子育てをしながら在宅で仕事を請け負うなど、多様な働き方が増えてきております。
このような背景を踏まえ、給与収入と公的年金収入のみに控除を適用するのは「働き方改革」をすすめる観点からも問題であるとして、給与・年金収入に係る所得計算の仕組み、及び所得控除(基礎控除)の見直しが図られました。

2.見直しのポイント

1)給与所得控除、公的年金控除から基礎控除へのシフト
2)高所得者について給与所得控除の引下げ(ただし、子育て世帯、介護世帯へは配慮)
3)年金以外に高額の副収入がある者については公的年金等控除を引き下げ
4)特に高額の所得者については基礎控除を逓減・消失

A2.給与所得控除等の見直し

1.給与所得控除について、次のとおり見直しが行われました。

1)控除額を一律10万円引き下げる
2)控除上限額が適用される給与等の収入金額を850万円以上とし、その上限額を195万円に引き下げる
3)見直し後の給与所得控除額は、下記(表1)のとおりとなりました。

(表1) 見直し後の給与所得控除一覧表

表1

(注1) 子育て世帯や介護世帯には、上表の改正に伴う負担増を調整する措置が講じられました。後述の「所得控除調整措置」をご参照下さい。

2.特定支出控除の特例と見直し

1)特定支出控除の特例とは
@居住者のその年中の「特定支出」の額の合計額が、給与所得控除額の1/2相当額を超えるときは
A給与所得の金額は、給与所得控除後の金額からその超える部分の金額を控除した金額とすることができます。
(※) 上記@に該当の場合にAの適用があります

2)現行の「特定支出」とは
居住者の次の@〜Eの支出をいいます。ただし下記a)、b)の支出部分を除きます。
a)給与の支払者から補填され、それに所得税が課されない場合の手当て部分
b)雇用保険法、母子及び父子並びに寡婦福祉法に規定する教育訓練給付金部分

@通勤費
通勤のために必要な交通機関、又は交通用具(自動車等)の利用のための支出で、その通勤の経路等に照らして最も合理的であることにつき勤務先により証明されたもの

A転居費
転任に伴う通常必要であると認められる費用であることにつき、勤務先により証明されたもの

B研修費
職務の遂行に直接必要な技術、又は知識を習得することを目的とする研修費であることにつき、勤務先により証明されたもの

C資格取得
資格を取得するための支出で、その支出が職務の遂行に直接必要なものとして勤務先により証明されたもの

D帰宅旅費
転任に伴い、単身赴任となった場合などに該当することにつき、勤務先から証明された場合における帰宅旅費で通常要する支出(1ケ月当り4往復を限度)

E勤務必要経費
次のイ) 又はロ)の支出(年間上限65万円)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして勤務先により証明されたもの
イ)書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するもの、及び制服、作業服その他の勤務場所において着用が必要とされる衣服の購入費用
ロ)交際費・接待費、その他の費用で、得意先・仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈与その他の支出

3)特定支出控除の範囲について次の見直しが行われました。
@特定支出の範囲に、職務の遂行に直接必要な旅費等で通常必要と認められるものが加えられた。
A特定支出の範囲に含まれている単身赴任者の帰宅旅費について次の見直しが行われました。
イ)1ケ月に4往復以内とする制限を撤廃する。
ロ)帰宅のために通常要する自動車を使用することにより支出する燃料費、及び有料道路料金の額を加える。

3.適用時期

上記1.給与所得控除の見直し、及び2.特定支出控除の特例の見直しは平成32年分以後の所得税、及び平成33年度分以後の個人住民税について適用されます。

A3.公的年金等控除の見直し

1.改正前の公的年金等控除制度

(表2) 改正前の公的年金等控除額表

表2

2.公的年金等控除について次の見直しが行われました。

表3

3.見直し後の公的年金等控除額

1)公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額(=B)の区分に応じて公的年金控除額が下記(表3)のとおり見直されました。

(表3) 改正後の公的年金等控除額表

表4

4.適用時期

上記公的年金等控除の見直しは、平成32年分以後の所得税、及び平成33年度分以降の個人住民税について適用されます。

A4.基礎控除の見直し

1.改正前の基礎控除は、所得の多寡に拘わらず一定額を控除しており,高額所得者ほど税負担の軽減額が大きくなっているという問題点が指摘されていました。 そこで基礎控除について次の見直しが行われました。

@控除額を一律10万円引き上げる
(注)これは給与所得控除及び公的年金等控除を一律10万円引き下げたことに見合う引き上げです。
A合計所得金額が2,400万円を超える個人については、その合計所得金額に応じて控除額を逓減・消失することとする。

2.改正前後の基礎控除額比較表(表4)

表5

A5.所得金額調整控除制度の新設

次の1.及び2.の制度が新設されました。

1.子育て世帯・介護世帯への配慮制度の創設 その年の給与等の収入金額が850万円を超える居住者は、前述(表1)のとおり給与所得控除が一律10万円引き下げられる外に、195万円の上限額を超える部分がカットされることになりましたが、それに伴う負担増が子育て世帯や介護世帯には生じないような調整措置が次のとおり講じられました。

(表5) 子育て世帯・介護世帯への配慮制度の内訳

表6

2.給与所得控除と公的年金等控除の調整措置の創設
給与所得控除額及び公的年金控除額は、前述の(表1)及び(表2)のとおり、それぞれに10万円ずつ引き下げられますので、これら両方の所得を有する人については、控除額はトータルで10万円の引下げとなるよう調整されました。

(表6) 給与所得控除と公的年金等控除の調整

表7