Dr.Watanabe’s tax column ドクター渡辺の税金講座 渡辺 豊 税理士事務所代表

改正民法と同時施行された
配偶者居住権の取り扱いについて

Q1.
改正民法の施行(令和2年4月)に伴い、配偶者居住権制度が併せて施行されたそうですが、どのように取り扱われるのですか。
A1.
改正民法(債権法)が令和2年4月1日から全面施行され、並行して新設の配偶者居住権制度についても同時施行されています。そこで、以下では新設された配偶者居住権の取り扱いについて説明させていただきます。
  1. 一.配偶者短期居住権の創設(改正民法1037条~1041条)

    • 1. 創設前
      • 1) 従前は最高裁の判例(H8年12月)では、共同相続人の一人が相続開始日から被相続人の承諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは被相続人に相続が開始した後も、遺産分割が確定するまでの間は引き続き同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるとしていました。
      • 2) しかし、被相続人が明確にこれとは違う意思師表示をしていた場合には、同居相続人の居住権は短期的にも保護されないことになっていました。
    • 2. 創設後
      • 1) 創設の趣旨
        被相続人の意思に拘わらず明文規定で配偶者の短期居住権を認め、同居配偶者の保護を図っています。実際上は相続人が後妻と先妻の子の場合などに有効です。
      • 2) 配偶者短期居住権の発生事由
        • ① 配偶者短期居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人の所有する建物に無償で居住していた場合、その被相続人の死亡により当然に成立します。
          そのため、配偶者が相続を放棄した場合であっても、後述のとおり一定期間無償で建物に住み続けることができます。つまり、使用貸借類似の権利として法定されています。
          ただし、配偶者が欠格事由に該当し、又は廃除により相続人でなくなった場合には、配偶者短期居住権も成立しません。
        • ② 配偶者短期居住権の対象となるのは、配偶者が無償で使用していた部分であり、居住建物の一部で小売業を営んでいた場合などではその店舗部分も引き続き無償で使用することができます。
          なお、有償で使用していた場合は、配偶者と被相続人との賃貸借契約に係る契約上の地位が相続人たる配偶者に引き続がれることになりますので、特段の手当はされていません。
      • 3) 配偶者短期居住権の存続期間
        • ① 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割すべき場合
          =遺産分割により居住建物の帰属が確定するまでの間、又は相続開始から6ケ月を経過する日のいずれか遅い日までの間
        • ② 遺贈などにより配偶者以外の第三者が居住建物の所有権を取得した場合や、配偶者が相続放棄をした場合など①以外の場合
          =居住建物を遺贈や配偶者の相続放棄などに伴い取得した者による「配偶者短期居住権の消滅の申し入れ」があった日から6ケ月を経過する日までの間
        • ③ 配偶者短期居住権は登記することはできず、第三者に対抗できませんが、次の条文を定めて、配偶者及び居住建物の取得者の権利・均衡を図っています。
          • イ)上記①、②による居住建物の取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の短期居住権を妨げてはならない。
          • ロ)上記②による居住建物の取得者は、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申し入れをすることができる。(申し入れから6ヶ月後に退去を要します)
  2. ニ.配偶者居住権の創設(改正民法1028条~1036条)

    • 1. 創設前の状況
      • 1)従前の民法では、共同相続人が先妻の子と後妻の場合などで相続に争いがある場合に、被相続人の配偶者(後妻)が安定的に住居を確保するためには、遺産分割に際し居住建物の所有権を取得する必要がありました。
      • 2)ところが、遺産の構成によっては、居住建物を配偶者が取得すれば他の金融資産は取得できなくなり、住居は確保したものの老後の生活に苦慮する事態となる心配がありました。
    • 2.創設後の概要
      • 1)そこで配偶者居住権を創設し、他の相続人が居住建物の所有権を取得し配偶者が配偶者居住権を取得することにより、配偶者の居住が確保されかつ他に金融資産も相続できるようにして老後の生活の安定に配慮しています。
      • 2)また、婚姻期間が20年以上の夫婦である場合は遺贈によって配偶者居住権を設定しても、特に反証がなされない限り、特別受益の持戻し免除の意思表示の推定によって、各共同相続人の具体的相続分の計算においては、配偶者が取得した配偶者居住権を考慮しないで算定することになります。(注1)
        (注1)
        持戻し免除の意思表示の推定による遺産分割
        婚姻期間が20年以上の夫婦である場合は、遺贈によって配偶者居住権を設定しても特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定して、遺産分割に際しては配偶者が取得した配偶者居住権の価額を考慮しないで各共同相続人の具体的な相続分を計算することを法定しています。(改正民法903条第4項)
      • 3) 一方、他の相続人も相続により取得する金融資産の額は従前より少なくなるものの、居住建物の所有権は確保されており、配偶者に別の相続人がいた場合でも、その居住建物の完全所有権が帰属することになります。
    • 3. 配偶者居住権あらまし
      • 1)配偶者居住権とは、残された配偶者が被相続人の所有する居住建物(夫婦で共有でも構いません)に居住していた場合において、被相続人が亡くなった後もその居宅建物の全部について無償で使用及び収益をする権利です。
        ただし、被相続人が相続開始の時に居住用建物を配偶者以外の者(例えば子やその他の親族)と共有していた場合には、配偶者居住権は認められませんので注意が必要です。
      • 2)配偶者による使用及び収益に関する権利
        配偶者居住権が認められる場合は、その効力は対象建物全体に及びます。つまり居住建物のうち、一部は居住用、他の部分は店舗や賃貸用などでは居住用のみならず収益の用に供している部分まで使用及び収益することが認められています。
        つまり、賃借権類似の権利として法定されています。ただし、建物の使用については、従前居住の用に供していた部分を収益の用に供してはならない(収益用部分を居住の用に供することは可)という制限が設けられています。
        (注2)
        配偶者居住権が設定されている建物が賃貸併用住宅の場合の家賃収入は、上記民法上の規定にかかわらず、居住建物の一部が賃貸されている場合には配偶者は相続開始前からその居住建物を賃借している賃借人に賃貸人たる権利の主張ができない(所有者でないので対抗できない)ため、実質的に配偶者居住権に基づく使用・収益をすることがない部分を除外して相続税評価額を算定する税務上の取り扱いとなっています。これとの関連からからも、この場合の家賃収入は居住建物の所有者に帰属するものとして取り扱われると考えられます。
      • 3)配偶者は居住建物の所有者の承諾を得なければ、建物の増改築をしたり、第三者に使用もしくは収益をさせることができません。これに反したときは、居住建物の所有者は配偶者への意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができます。
    • 4.配偶者居住権の取得方法
      • 1)配偶者が配偶者居住権を取得するためには、次の要件の充足が必要です。
        • ① 配偶者が被相続人の建物に相続開始の時に居住していたこと
        • ② 遺産分割又は遺贈(死因贈与を含みます)によって配偶者居住権を取得すること
        • ③ 被相続人が相続開始の時に、居住建物を「配偶者以外の者」(例えば被相続人の子やその他の親族)と共有していないこと
          (注3)
          (注3)配偶者以外の者が共有者にいる場合には、その共有者の権利が不当に害されることになったり、権利関係が複雑になる等を考慮し、配偶者居住権の成立を認めていません。
          (注4)なお、配偶者が共有持分を有するときでも、被相続人の居住建物の共有持分に対して配偶者居住権の設定は可能です。これを認めたのは被相続人の共有持分を取得した者から配偶者が家賃を請求されたり、共有物の分割請求を受けたりするリスクから配偶者を保護するためです。
      • 2)配偶者居住権の存続期間配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間です。
        ただし、遺産分割の協議で、もしくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所における遺産分割の審判において別段の定めをしたときはその定めるところによります。
      • 3)配偶者居住権は譲渡することはできません。
        ただし、配偶者居住権を合意等により消滅することは可能であり、その場合の課税関係は次のとおりです。
        • ① 配偶者居住権を合意解除し、対価を受け取らなかった場合
          =原則として解除時点での配偶者居住権の相続税評価額により、居住建物の所有者に対し贈与税の課税対象となります。
        • ② 配偶者居住権を合意解除し、対価を受け取った場合
          =受け取った対価は、譲渡所得(総合課税)の課税対象となります。
      • 4)配偶者居住権の登記と効果
        • ① 居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負うと定めています。
        • ② つまり、配偶者居住権は登記することで第三者(例えば居住建物を譲り受けた者)に対抗することができ、単に居住しているだけでは第三者に対抗できません。
        • ③ 権利を主張するための登記は、登記の先後で優先順位が決まりますので、配偶者居住権の設定登記よりも先に居住建物が建物所有者の債権者に差押さえれれてしまうと、その債権者に権利を対抗できなくなりますので、登記は早く済ませておくことが肝要です。
    • 5. 配偶者居住権の維持・管理と消滅事由等
      • 1)居住建物の修繕等
        • ① 配偶者は居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます。
        • ② 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者はその修繕をすることができます。
      • 2)居住建物の費用の負担
        • ① 配偶者は居住建物の「通常」の必要費(注5)を負担します。
          なお「特別」の必要費、有益費(上記以外の費用)は居住建物の所有者が負担します。
        • ② 配偶者が居住建物の改築や増築をするときは配偶者は居住建物の所有者の承認が必要です。(その増改築費用は建物所有者の負担となります。)これに反したときは、建物所有者の意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができます。
          (注5)
          通常の必要費の範囲
          通常の必要費は、使用貸借に係る民法595条に規定する「通常の必要費」と同じであり、居住建物の使用及び収益に必要な通常の修繕費のほか、居住建物及びその敷地の固定資産税等が含まれます。
      • 3)居住建物の返還等
        • ① 配偶者は配偶者居住権の存続期間が満了し、消滅したときは居住建物を返還しなければなりません。ただし、配偶者が建物の共有持分を有するときはこの限りではありません。
        • ② 居住建物の返還にあたり、配偶者が相続開始後に附属させた物があるときは、原則としてこれを収去する義務があります。また、相続開始後に生じた損傷が配偶者の責めによるものであるときは、原状回復義務があります。
      • 4)居住建物が消滅した場合の配偶者居住権の消滅
        • ① 配偶者居住権が設定されている居住建物が老朽化等により取り壊して建て替える場合には、配偶者居住権は消滅することになります。
        • ② ただし、居住建物の所有者は配偶者居住権を有する配偶者に対して居住建物を使用及び収益させる義務を負っていますので、配偶者の意思に反して建物を取り壊わすことはできません。
        • ③ そこで、居住建物が建て替えられる場合には、配偶者居住権が消滅するとしてもその建て替えの際に、例えば新築建物に対して借家権を認めるなどの条件で建て替えに同意するなどの様々な選択肢があり、配偶者に酷な結果にならないような配慮は可能と思われます。
Q2.
配偶者居住権は相続税の課税対象となるとのことですが、どのように評価するのですか。
A2.
    • 1. 配偶者居住権が法定評価とされた理由
      • 1)配偶者居住権は譲渡することが禁止されているため、不特定多数者間の自由な取引において通常成立すると認められる「時価」の成立はあり得ず、その評価額についての解釈が確立していません。
      • 2)そこで、課税の公平性を確保する観点から、配偶者居住権について相続税評価額の算定方法が法定されたものです。
      • 3)ただし、配偶者短期居住権は、相続により当然に成立する権利ですが、存続期間は相続開始後の短期間に限られることなどから、相続税の課税対象とはされていません。
    • 2. 配偶者居住権等の評価方法(相法23条の2)
      配偶者居住権等とは、次の1)配偶者居住権と2)配偶者敷地利用権に区分して評価した額の合計額となります。
      1)配偶者居住権の算式
      • <上記算式の補注>
      • ① 居住建物の時価とは、居住建物の相続開始日の相続税評価額(=固定資産税評価額)のことです。
      • ② 分数の分母(配偶者居住権設定時の居住建物の残存耐用年数)又は分子(=居住建物の残存耐用年数-配偶者居住権の残存年数)が“0”以下となる場合には、分数全体を0とします。
      • ③ 「耐用年数」とは居住建物の全部が居住用であるものとした場合における法定耐用年数を1.5倍した年数(1年未満の端数は四捨五入)をいいます。
      • ④ 「経過年数」とは、居住建物の新築時から配偶者居住権の設定時までの年数(1年未満の端数は四捨五入)をいいます。
      • ⑤ 「存続年数」とは、配偶者居住権が存続する年数をいい、具体的には次の区分に応じそれぞれに定める年数(1年未満の端数は四捨五入)となります。
        • a)配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身とされている場合、その配偶者居住権が設定された時におけるその配偶者の平均余命(※)
          (※)厚生労働省が5年毎に作成する「完全生命表」で配偶者居住権が設定された年の1月1日現在において公表されている最新のものに基づく平均余命をいいます。
        • b)a)以外の場合
          =遺言又は遺産分割協議により定められた配偶者居住権の存続年数(その年数が配偶者の平均余命を超えるときはその平均余命とします)
      • ⑥ 法定利率は2020年から当初3%の変動制となり、3年毎に見直されます。
        その法定利率に基づく複利現価率は国税庁より評価通達で公表されます。

      2)配偶者敷地利用権の算式
      • =居住建物の敷地の時価(B)-(B)×「存続年数」に応じた法定利率による複利現価率
        • 〈上記算式の補注〉
        • 居住建物の敷地の時価とは、その敷地の相続開始日の相続税評価額(路線価評価額など)のことです。